歴史的為替変動
2015年1月にスイスフランショックと呼ばれるFX市場史に残る大変動があった。
そのスイスフランショックの発生要因をまとめる。
きっかけはスイス国立銀行(スイスの中央銀行)が発表した対ユーロ市場の介入の停止発表。
今回はスイスフランのFX市場における特徴を踏まえつつ、中央銀行間の規模の問題がFXにどのような影響を与えるかについて説明する。
なお、このスイスフランショックによって苦しんだ人々のまとめは、以下のリンクが参考になる。
スイスフラン騒動で大儲けした人と大損した人の阿鼻叫喚の叫びまとめ #fx - NAVER まとめ
スイスフランショックで大儲けした人と大損した人。ファイナンススタジアムより抜粋。 - マネー報道 MoneyReport
対ユーロで取引が盛んなスイスフラン
為替市場は一般的に対ドルレートで表現される(豪ドル円相場は豪ドル米ドルレートと米ドル日本円レートの合成によって成り立つ)が、経済的に結びつきが強くかつ流動性がある通貨同士の場合、ドルを介在しない取引も行われる。
ユーロとスイスフランはまさにそういった関係だ。
ユーロ圏の経済低迷とECBの金融緩和で、買われやすいフラン
ユーロ圏の経済低迷は2010年のギリシャ問題に端を発する債務危機以降とくに深刻な状況だった。その後いったんは落ち着きを取り戻すが、ECB(欧州ユーロ圏の中央銀行)が大量の資金供給を行い、民間銀行に欧州各国の国債を買わせる、といった金融政策に支えられた面が大きい。
ユーロ圏の経済は弱弱しい状況が続いていたのだ。
スイスを取り巻く巨大な経済圏であるユーロ圏で金融緩和が行われているため、スイスフランは非常に買われやすい状況だった。ユーロ売りの受け皿としての買いが、スイスフランに集まるからだ。
通貨高に伴う強烈なデフレ圧力にスイスは苦しみ続けており、同様の悩みを抱えていた日本よりも金利水準は低かった。
スイス人は自国通貨高に対抗するため、近隣のドイツの町まで出かけて買い物をするなど、スイスで事業を行うには不利な状況が続いていた。
スイス中銀は為替介入で対抗
そのスイスフラン高に対抗してスイス中銀は為替市場で介入を行ってきた。スイスフラン高の防衛ラインとして公表してきたのが、ユーロ・フランで1.2の水準だ。
これはユーロをフランで評価した値であるため、数字が小さくなるほどフラン高を示す。下のチャートのように最近では1.2付近に張り付いていた。
しかし、通貨防衛の継続性に見切りをつけ始めたスイス中銀は、突如としてユーロ・フラン1.2の防衛ラインを放棄することを発表した。
中央銀行が防衛すると宣言していた1.2の防衛ラインを、が突如放棄したのだから大幅な値動きが出るのは当然である。
ポジションカットの強制決済が入らなかったという嘆きがネット上にあふれているが、(一瞬前の)現行レートから離れすぎた水準には、オーダーが入っているわけも無いため、ポジションを切ろうにも真空地帯を突き進むだけになってしまう。
だが、これを見て、「介入が無くなったらフリーホールだからそもそも危ないトレードだった」というのは、結果論の色合いが強いだろう。スイス中銀は直前まで対ユーロ1.2の防衛を強く示唆していたからだ。
年末の投資銀行や商業銀行が発表する2015年度の推奨トレードでも、スイスフランの売りが複数行から提示されるなど、スイス中銀の防衛ラインは為替市場から信頼感を持って見られてきた。
なぜ、介入をやめたのか
自国通貨安に対抗する為替介入は、その国が保有している外貨準備が限度となるため、行き詰まりやすい(イングランド銀行の買いラインをジョージ・ソロスなどヘッジファンド勢が破った伝説、など固定相場ならいつでも起こりうる)。
反対に今回のスイスフラン高に対するスイス中銀の介入のように、自国通貨高に対抗する為替介入には通常は限界は無い。通貨をいくらでも刷って、他国通貨(資産)を購入すれば良いからだ。
そのため、スイス中銀の防衛ラインは決壊することは無いと思われていた、スイス中銀が自ら放棄しない限り。
スイス中銀が介入をやめた理由は明白である(起きてしまった後だから言えることだが)。
ユーロ買いスイスフラン売りの介入を続けると言うことは、スイス中銀のBS(貸借対照表)のなかにユーロ建ての資産が溜まっていくことになる。そしてこれが毀損すればスイスの納税者の負担だ。
そして欧州中銀は、金融緩和の姿勢をさらに強めようとしている。国債の直接買い入れも実施すると見られている。これまで以上に市場にユーロがあふれることになり、それに対抗するにはスイス中銀は一層大量のユーロを買わなくてはいけなくなる。
(こうなった後だから出る話だが)スイスが1ユーロ買う間に欧州中銀は3ユーロ売る、所詮は中銀(が背景にしている経済圏)の規模が違う、などという話も聞こえてきた。
欧州中銀が緩和姿勢を強めれば強めるほど、スイス中銀はどんどん深みに入って行かざるをえなくなる。
今回の防衛ライン撤廃は、本当に引き返せなくなる前の(勇気ある?)撤退という訳だ。
このように中央銀行間に規模の違いがある時は、規模の大きい中央銀行の政策がインパクトを与えることが多い。
そのため、為替市場では最も規模が大きい米国のFRBが最も注目されるし、それに次ぐECB(欧州中央銀行)の存在感も非常に大きい。
海外FX業者の影響
海外のFX会社は、顧客口座がマイナスになった場合、それを自社でかぶる(顧客から徴収しない)という形態をとっている会社が多い。
そのため、海外FX業者にはたくさんの倒産会社(ALPARI,Globel Brokers NZ、Bston Technologis)が出た。
海外FX会社の倒産が多発したことで、海外FX会社は危ないと思った人もいるかも知れないが、(確かに不透明な部分もあるが)顧客の損失を被ったから倒産したようなものなので、顧客からしたら海外FX業者を使っていて助かった、ともいえる。
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