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サウジアラビア・リアルにみる固定相場制の弱みー国際金融のトリレンマ



サウジアラビア・リアルについて

サウジアラビア・リアルは管理された通貨です。その管理とはドルに連動させるドルペッグという制度を取っていることです。

このドルペッグは、発展途上国が自国通貨を安定的に保つために特に好まれている制度ですが、同時に多くの問題を引き起こしています。

今回はサウジアラビア・リアルから管理通貨の問題点を見てみたいと思います。なお、こうした問題は人民元などにもいえることで、幅広い通貨に応用可能な見方になります。

管理通貨の限界、国際政治のトリレンマ

国際金融のトリレンマという概念があります。これは、ノーベル賞学者のロバート・マンデルによって提唱されました。

①固定的な為替相場

②自由な金融政策

③自由な国際資本移動

これら3つは一国(特に発展途上国)の通貨当局としてはすべて魅力的です。

しかし、国際政治のトリレンマは、これらが同時には成立しないという理論になります。

反対に、この三つのうちその一つを断念し、二者のみの両立を目指せば、その通貨制度は存続可能とも解釈されています。

日米など主要国は①固定的な為替相場を放棄し、②自由な金融政策③自由な国際資本移動の両立を達成しています。

中国などは③自由な国際資本移動を放棄し、①固定的な為替相場②自由な金融政策の両立を目指しています。

サウジを含む米ドルペッグの通貨制度を持つ中東諸国やカレンシーボード制の香港、ECB による単一的な金融政策を受け入れている欧州諸国は②の放棄の上に①③を両立させています。

しかし、国際金融のトリレンマは「これを守れば、必ずその通貨制度は存続可能である」という条件ではないことには注意が必要です。

 

特に③固定為替相場型の通貨制度は、92 年のポンド危機(英国のERM 離脱)や97 年のアジア危機(タイやインドネシアの米ドルペッグ制の崩壊)のように、しばしば崩壊に追い込まれます。

これは直接的には、為替市場の投機的売買が原因になっていますが、それを誘発しているのは長期的には存続不可能なインバランスを抱えた制度だったということでしょう。

ファンダメンタルズの弱さを投機につかれただけであって、投機筋がいなくてもいずれは崩壊したと言えます。

 

非常に強固な固定相場制であり、従来は「決して崩壊することはない」と言われたカレンシーボード制でさえ、2001 年のアルゼンチン危機で、いとも簡単に崩壊してしまうという前例を作ってしまいました。

 

これらの前例で共通する特徴は、

(a)内外インフレ格差やペッグ対象通貨(多くは米ドル)の上昇などから生じる実質為替レートの上昇

(b)それに伴う国際競争力の悪化と経常赤字の拡大

(c)危機前の好況期に膨らんだ債務の不良債権化

などであります。

こうした中でペッグ通貨(米ドルが多い)の金融引締め(実質金利の上昇)についていけなくなり、経常赤字のファイナンスが限界に達したところで、往々にして③通貨ペッグ(固定相場)制度は崩壊に至ります。

サウジアラビアの為替制度はどうなのか?

原油安で売り込まれるサウジアラビア・リアル

今日のサウジの場合、2014年から2016年にかけての急激な原油安の結果、景気、財政事情、国際収支が同時に悪化しました。

財政赤字と経常赤字のファイナンスのため、昨年来、サウジはサウジ通貨庁(SAMA:中銀とソブリン・ウェルス・ファンドの2 つの側面を持つ)が過去に積み上げきた海外資産を売却し、国内に還流させており、それが世界市場の混乱の一因になっているとも言われています。

こうした中、昨年来、サウジリアルには通貨切り下げ圧力が強まる場面がありました。

サウジアラビア通貨が投機筋に(買いで)最も攻められたのは原油高時

興味深いのは、サウジに対する通貨の売り浴びせで過去最大のものは、2007 年から2008 年にかけて発生したことだ。ただ、実はその時、サウジリアルが受けた圧力は、今回のような通貨切り下げ圧力ではなく、通貨切り上げ圧力でした。

 

当時、急速に拡大する中国など新興国で強まった需要拡大で、原油価格が高騰。その結果、急速にサウジの経常収支が改善したことを背景とする通貨切り上げに追いやろうとする、投機筋の買い圧力です。

かつてはサウジアラビア経済はアメリカ連動

サウジが米ドルペッグ制を導入した当時のように、世界の中でも米国経済のシェア・影響力が圧倒的だった時代であれば、原油需給が事実上、米国経済の良し悪しに影響され、サウジ経済も米国経済と連動して変化することが多かったわけです。

原油の取引通貨である米ドルに自国通貨をペッグさせることはある意味合理的でした。

経済のファンダメンタルズが連動するなら、通貨がそのファンダメンタルズとかい離しないように強制的に連動させても、悪いこととは言えないでしょう。

しかし、米国の世界経済へのシェアは低下傾向

しかし、2000 年代に入り、中国を始めとした新興国の世界経済における存在感が急速に高まり、原油需給もその影響を色濃く受けるようになった。そのため、サウジ経済とペッグ対象国である米国経済との間に時に、大きな景況格差が生じるようになりました。

こうした世界経済の構造変化がサウジの通貨制度の構造欠陥として最初に明確化したのが、2007 年の通貨切り上げ圧力だったわけです。

この問題を抜本的に解決する一つの方法は、サウジリアルのペッグ対象を米ドルから、原油需要を加味した通貨バスケットに切り替えることでした。米国のみに連動する経済から、世界経済に連動する経済に変化したわけですから、通貨制度もそれに伴って変更するべきだったわけです。

固定相場制は自国通貨高圧力には強い

しかし、一般的に固定相場制は切り上げサイドへの通貨アタックには非常に強い耐久性があります。

自国通貨の(投機筋の)売りに対抗するには外貨準備で買い向かわなければならないわけですから、介入にも限度があります。

一方で自国通貨の(投機筋の)買いに対抗するには、自国通貨を刷って(外貨に対し)売れば良いだけなので、理論上限界はありません(国際世論などが制約にはなるわけですが)。

このことは、下の記事でも説明しています。

固定相場制の買い圧力に強いという性質から、その時のサウジも通貨切り上げを行うことなく、その投機筋の攻撃を乗り切ることができました。

その直後に2008 年のリーマン危機が発生し、世界経済が失速し、原油価格が急落したことも、サウジに対する投機筋の買い圧力も短期間で収束させることになりました。

サウジアラビア・リアルは売り圧力には勝てるのか

しかし、前回とは反対に、サウジが直面しているのは、通貨切り下げ方向への市場の挑戦である。

先ほど、固定相場制は売り圧力には弱いことを説明しました。実際に、過去にも市場圧力で切り崩れた前例は数多くあります。イングランド銀行(BoE)とジョージソロス(をはじめとしたヘッジファンド勢)の戦いは有名ですね。

上記の通り、原油安によって、サウジは景気、財政収支、国際収支が同時に悪化するという三重苦に見舞われています。

特に問題なのは、2000 年代の長期的な原油高の時期に、サウジは公務員の給料引き上げ、社会保障制度の拡充、公共投資による雇用創出など、財政支出を増やしたため、財政収支や経常収支が均衡する原油価格が大幅に上昇してしまったことです。

また近隣との軍事的緊張も軍事費を増やすことに繋がっています(イエメン空爆など)。

2010 年から2012 年にチュニジアやエジプト、リビアでの政権転覆という「アラブの春」を目の当りにしたサウジ王家・政府が財政支出を削減することは容易なことではないでしょう。つまり、財政収支と経常収支の改善は難しい。

米国や豪州など変動相場制の国は、通常、交易条件が改善する時には通貨高、交易条件が悪化する時には通貨安となり、景気の過熱や落ち込みを和らげる傾向があります。

 

だが、サウジの場合は交易条件が改善する時(原油高の時)に通貨安、悪化する時(原油安の時)に通貨高となる傾向があります。

リアルがペッグしている米ドルと原油・資源価格が基本的に逆相関の関係にあるからです。

 

固定相場制はある意味理想的な部分がある制度ですが、現実の経済の複雑さや変化を織り込めない制度であるので不均衡が蓄積しやすく、長い時間軸で見ればどこかで崩壊する可能性が高い制度と見た方が良いかも知れませんね。