企業が為替リスクをヘッジする必要性
FX市場は実体経済と関連が強い
為替(FX)市場はもちろん金融市場ではあるのですが、実体経済との関連性が非常に強い市場でもあります。
- 輸出企業は海外に桃生売った代金として外貨(ドル)を得るので、それを円に換えなくてはならない(ドル円の売り)
- 輸入企業は海外からものを仕入れた料金として外貨を支払うので、円を外貨(ドル)に換えなくてはならない(ドル円の買い)
上の例のように、輸入であれ輸出であれ、異なる通貨を使う国と取引する際は、基本的に為替市場で売買が常に発生することになります。
このような輸出入に絡んだ為替取引は、実需取引と呼ばれます。実需取引は、投機的な為替取引と比べて1取引当たりの規模は小さいものの、反対売買がない為替取引(投機的な取引だと一定時間後には反対売買を行うため、長期的にはFX市場に影響を与えない)なので、FX市場では重要視されています。
企業業績は為替に大きな影響を受ける
そして、輸出企業を例に挙げるなら、為替水準が10%円安になったら、輸出の売り上げが10%伸びることになります(単純な通貨換算ベース、実際は企業の価格戦略次第でいろいろ変わる)。
この為替のレート変動で売上高が10%伸びる効果って、すごく大きくて(売り上げが全部海外の企業なら)、売上高に対する利益率が5%の企業なら利益が3倍になる計算です。
例で説明します。
売上高が100の企業で売上高利益率が5%なら利益は5です。
為替変動がない場合 100×5%=5
為替が10%自国通貨安になると、外貨で得た売り上げの価値が上昇するので、売上高は10%伸びます。これは原価のかからない売り上げの増加なので利益はそのまま10増加します。
為替変動による利益増 100×10%=10
もともとの利益が5なので、合算した利益は15。
為替変動のない場合の利益が5だったのに、為替が10%上昇したら15になるのだから、3倍の利益増になりますね。
同じ計算をすれば、売上高に対する利益率が10%の企業では、利益は2倍になる計算ですね。
実際は、企業は外貨での仕入れを行っていたり、現地で生産・購買したりするのでこんな大きな影響はでないわけですが、純粋に為替変動による売り上げ増は利益貢献が大きいことがわかるかと思います。
利益の安定には為替をヘッジすることが必要
しかし、これは自国通貨安(円安)という企業にとって有利に為替が動いた場合です。
円高になれば、全く正反対の影響を受けてしまうことになります。原価が同じで、円高によって(輸出分の)売上高が減少したら、上の例で起きたことと全く逆のことが起きて、急激に利益が落ち込むのは当たり前ですね。
実際リーマンショック後の急激な円高局面では、日本の上場企業全体の合計利益が赤字になるっていう世界でも稀な事態に陥りました。
こうした為替変動によるマイナスの影響を少しでも軽減するために、企業は為替レートを固定しようとします。この為替レートを固定しようとする行為を為替ヘッジをする、といいます。
ヘッジとは囲い込むってことで、為替を囲い込んで利益を固定化するイメージですね。
ちなみにヘッジファンドのヘッジも、市場リスクから利益を囲い込むってところから来ています(現在では様々な戦略があるヘッジファンドも、当初はロングショート的な市場リスクをヘッジする戦略が一般的だった)。
為替ヘッジの方法
為替ヘッジをしなければ、輸出の利益は為替次第
仮に為替ヘッジをしなかったとしたら、輸出企業の採算は、輸出の対価(ドル)を受け取るタイミング での為替次第になります。
6ヵ月後に100万ドルの輸出代金を受け取ることが決まっている輸出企業があったとします。
この場合、100万ドルの入金を待ってからドルを円に換えようとすれば、6ヵ月後の為替レートによって、円ベースでみた損益が確定することになります。
為替レートが1ドル1円動くごとに、同社の売り上げと利益は1万ドル(この場合100万円)変化します。
これは、半年後の為替レートに賭けるって意味で、ギャンブル的な行動ですね。
ギャンブルを避けて、現時点で為替レートを固定したいってときは、このフォワード取引(為替予約)を銀行と行えば、為替リスクがヘッジできます。
為替にはスポットレートとフォワードレートがある
輸出企業は利益を最大化するために円ができるだけ安い時に為替レートを固定したい(決済したい)、という欲求を持ちます。上の例でみたように、為替レートの変動による売り上げ変化は、企業の利益に直結し業績に大きな影響を及ぼすからです。
では、為替ヘッジをどうやるのかご説明します。
為替取引は売買約定時から通常2営業日で、為替の受渡しが行われることを以前ご説明しました。
通常パターン(2営業日後の受け渡し)で行われる取引を直物取引(スポット取引)といいます。
そして、それ以降(3営業日以降)の将来の一定時点において受け渡しが行われる取引を、現時点で契約する事を先物取引(フォワード取引)といいます。
このフォワード取引は、現在の価格(スポット価格)で一旦取引を決めて(価格を固定して)おいて、将来時点で受け渡す取引とも言うことが出来ます。
いかにもヘッジに使えそうな雰囲気が出てますね。
フォワードレートがどのように決まるか
フォワードレートの決まり方を以下の例で説明してみます。
仮に、現時点でのドル円のレートが1ドル100円だったとしましょう。これは為替取引の通常ケースである2営業日後の受け渡しの際の価格(スポットレート)が100円という意味です。
(わたしたちが通常見ている為替レートって、実はこのスポットレートのことなんですね)
1ドル100円で固定したい企業はまずこの100円で取引を行います。スポットレートをまず固めるわけですね。
ただし、これで終わりではありません。
通常の為替は2営業日後の受け渡しです。それを6か月後にするには、スポットレートより受け渡しを待ってもらうことを意味します。
受け渡しを銀行に待ってもらうには、本来の2営業日後以降、輸出企業が受け取るはずだったドルの金利と、銀行が受け取るはずだった円の金利を交換してあげなくてはなりません。
日米の金利差を調整してあげるわけです。
FX取引のスワップポイント分をスポットレートからずらしてあげるってことになります。(この説明は実は少し簡略化していて、厳密には、取引時に予想される将来スワップポイントの合算分を反映させるわけですが、イメージが湧きやすいように前の分の表現にしました。)
それによって出てきたレートがフォワードレート(先物レートになります)。
スポットレートが1ドル100円なら、フォワードレートは98円とかになります(実際の数値は金利差次第)。
米国の金利の方が日本より高いので、その高い金利を受け取る権利を銀行に待ってもらっているため、スポットレートよりフォワードレートが低いレートになることになります。
フォワードレートの実際と為替ヘッジ
上の例はフォワードレートの決まり方を見るために分解した例で、為替市場にはフォワードレートそのものも取引されています。(上の例のように、スポットレート+金利調整で取引するケースも多い)
ただし、為替取引の本質であるスポットレートと違い、あらゆる通貨ペアでフォワードレートが用意されているわけではありません。
フォワードレートが用意されているのは、実際の輸出入の取引が多い通貨ペアに限られています。
ほとんど貿易がない2国間のフォワードレートを用意していても、誰も利用しないので無駄ですからね。
なお、ドル円やユーロドルなどの主要な通貨ペアは、5年までの先物レートが提示されています。ただし、実際には1年以内の取引が大半です。
為替レートをあまりにも長期間にわたって固定するのも、リスクなので。
1ドル200円の時代になっても、自社だけ為替ヘッジのせいで1ドル100円で輸出することになったら、ほかの企業に競争で勝てないですからね。
こういった要素に、自社の相場観や業績見通し上の都合などを加味して、企業は為替ヘッジを行っております。
為替ヘッジについてのまとめ
- 輸出入の取引は、為替市場の実需取引に分類される。
- 実需取引は、反対売買がない為替取引のため、FX市場において大きな意味を持つ。
- 為替ヘッジはフォワードレート用いて行われる。
- フォワードレートは、スポットレートに二国間の金利差を加減して決定される。
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