FXの両建てが有効なのは、スワップの鞘取りと節税のみ
外国為替証拠金取引(FX)で両建てを行う投資家がいます。
この両建てはしばしばポジションコントロールなどと絡めて語られますが、そのような使い方は意味を持ちません。
ただ、すべての両建てが無意味かというとそんなことはなく、
- スワップの鞘取り
- 節税狙い
の2つの使い方は有効です。
この観点から、FXの両建てについて説明していきたいと思います。
FXの両建てとは?
FXの両建てを一言で説明すると、同一通貨ペアで同じ数量の買いポジションと売りポジションを同時に持つことです。FXの両建ての例として、1米ドル=120円の時に、米ドルの買いポジションを取った投資家を考えてみます。
まず、1ドル120円でドルを買って、首尾よくドル円が130円まで上昇した際にポジションを解消するケースです。
一般的なFXの利益の出方で10円分(×保有外貨額が実際の利益)の利益が出ることになります。(基礎から確認したい人は関連記事をご覧ください)
このケースを図示すると下のようになりますね。
一方で、同じ現象(120円で買ったドルが130円になった)が起きたときに、両建てで利益を確定する場合を図示すると下のようになります。
両建て後、1ドルが110円になったケースが図の後半ですが、利益が維持されていることがわかると思います。
両建ては基本的に意味がない(ポジションクローズと一緒)
当たり前ですが、この利益が維持されるって性質はポジションを決済した場合と同様なので、経済的に違いがありません。
ですので、よく「危険な局面では両建てでリスクをヘッジする」という手法が語られることがありますが、通常時では意味がないことは明白です。
ポジションを決済しても、両建てしても、経済的に一緒なわけですから。
ただし、特殊なケースでは両建てとポジションクローズが経済的に同一でないケースもあります。
そうした特殊なケースを利用する方法を述べたいと思います。
スワップの裁定取引
スワップの裁定取引とは、FX取引によって発生するスワップポイントの差を利用して、そのサヤを利益として狙う手法です。日本の投資家の場合、外貨を買って、日本円を売るポジションからFXを始める人が多いです。
2017年時点で、日本の中央銀行である日本銀行がマイナス金利政策を取っていることもあり、FX取引で外貨買い、円売りポジションを取ると、ほとんどのケースでスワップポイントという、通貨間の金利差によって発生する収益を受け取ることができます。
通貨間の金利差が大きければ大きいほど、スワップポイントは高くなりますので、高金利通貨として知られるトルコリラを買って、日本円を売るポジションをFXで持てば、米ドルや英ポンドなどの金利が低めの通貨を買うよりも、多めのスワップポイントを受け取ることができます。
逆に、外貨売り、日本円買いのポジションをFXで取ると、多くの場合でスワップポイントの支払いが発生することになります。
このスワップポイントは、FX業者によって異なっており、高めのところと低めのところが存在しています。
スワップポイントが高めの業者で高金利通貨の買いポジションを取り、スワップポイントが低めの業者で同じ通貨の売りポジションを取ることで、業者間のスワップポイントのサヤを抜いて収益を上げるという投資手法が可能になります。
そして、この業者間でのスワップポイントの差は、高金利で流動性が少ないようなトルコリラのような通貨でより顕著になります。
なので、トルコリラを例に説明してました(別に何の通貨でも良いのですが)。
このスワップポイント裁定を簡単に図にすると以下の様になります。
日本ではたくさんのFX業者がサービスを提供していることから、スワップポイントの差を細かくチェックしていけば、スワップの裁定取引を行うことが可能に見える局面はあります。
スワップ裁定のリスク
スワップの裁定取引を行う投資家は、値動きが激しい新興国の高金利通貨でポジションを取っても、2つの業者で買いと売りのポジションを同時に取るため、損失を受ける可能性は少なくなります。
ただ、全くのノーリスクかというとそんなことはなく、実際にはいくつかのリスクが存在します。
まず、スワップの裁定取引を行う場合、買いと売りの両建てでポジションを取りますので、手数料であるスプレッドが2倍かかることになります。また、高金利通貨ほど、スプレッドは高額になります。
また、スワップの裁定取引を行っている最中に、投資先の通貨が暴落したり、急騰したりすると、買いか売りのどちらかのポジションについて、ロスカットが発生する可能性があります。
仮に、投資通貨が急落して、買いポジション側のFX業者でロスカットが行われると、もう一つのFX業者で売りポジションだけを保有する形になります。この場合、売りポジションで利益が生じることになりますが、スワップの裁定取引を続けるためには、ロスカットが行われたFX業者の方で、再び買いポジションを立てなければなりません。
ポジションを取ることで、もう一度スプレッドを支払う必要が出てきます。スワップの裁定取引を行うと、ロスカットが起こる度にスプレッド・コストが発生することになり、スワップポイントのサヤによる収益を減らすことになります。また、FX業者によっては、ロスカット時にスプレッドが発生するところもあります。
ロスカットを避けるためには、投資先の為替レートを常に見ながら、含み益が出ている方のポジションがあるFX業者の口座から、含み損があるポジションのFX業者の口座に資金を移動する必要があります。
これを怠ってしまうと、ロスカットが発生する可能性が高くなります。スワップの裁定取引を継続するためには、投資家が時間をかけて常日頃から為替レートをチェックし、2つのFX業者の口座にある含み益と含み損を調整し続けるメインテナンス作業が必須になります。
ただし、どれだけ細かく管理をしていたとしても、2008年のリーマンショックのような金融市場の激変が起こってしてしまうと、ロスカットの発生を避けられない場合があります。
また、日本のFX業者は、ロスカットでポジションをクローズしても損失が埋められないような外国為替レートの動きがあった場合、投資家に対して追証を請求してきます。
もう一つのFX業者で利益が出ているポジションがあっても、損失が発生したポジションの追証に回す必要があります。そのため、日本国内でスワップの裁定取引を行っても、追証の制度によって、投資家側に利益が出にくい構造になっているのです。
なお、日本の投資家でも取引ができる海外のFX業者で、スワップの裁定取引を行う人もいます。日本国内のFX業者と同様、海外のFX業者でもスワップポイントの大きさは、各社まちまちです。
海外でスワップの裁定取引を行う場合であっても、投資手法は日本国内と同じです。スワップポイントが高めのFX業者と、低めのFX業者を選び、同じ通貨ペアの買い、売りポジションをそれぞれで持ち、サヤを狙います。
日本国内、海外のFX業者どちらを利用するにしても、スワップの裁定取引を行う場合は、これらのリスクやコストを念頭においておくことが重要です。
税金の先送り
FXの両建てを行う人の中には、税金の先送りを目的としている人もいます。ある投資家がFX取引を行い、予想通り外国為替相場が動いて、50万円の利益を確定したケースを考えてみます。
FX取引で確定した利益は、確定申告を行って税金を支払う必要があります。この投資家は、今年税金を払うのではなく、来年に先送りをしたいと考えています。このような状況にある人は、FXの両建てによって税金の先送りを狙うことができます。
なお、税金の先送りを目的とするFXの両建ては、スワップの裁定取引のようにサヤを取るための投資手法ではありませんので、2つのFX業者で買いと売りのポジションを取るのではなく、1つのFX業者で両建てを行う投資家もいます。
日本のFX業者の中には、以前両建てを禁止していたところがありましたが、最近は可能になっている業者が多くなっています。
FXの両建て取引を行うことで、同じ通貨ペアの買いと売りのポジションを持つことになります。保有している通貨の為替レートが動き出したら、一方で含み益が出て、もう一方で含み損が発生します。
損失が発生しているポジションの含み損の額が50万円に到達したら、そちらだけをクローズして損失を確定します。既に確定していた50万円の利益と、両建ての一方のポジションをクローズした50万円の損失をあわせると、プラスマイナスはゼロになります。
持ち続けている両建てのもう一方のポジションには、50万円の含み益がありますので、これを来年まで持ち続けることによって、今年のFX収益をゼロにして、合法的に課税の先送りをすることができることになります。
FX取引については、3年まで損の保存、利益繰越(節税の項目)ができるようになっています。そのため、投資家が置かれている状況に応じてFXの両建てを駆使すれば、税金の先送りを狙うことができるのです。
ただし、前述の通り、FXの両建てにはスプレッドコストが2重でかかります。また、同じ数量で両建てを行う場合、売りポジションのスワップポイントの方が買いポジションよりも大きいFX業者がほとんどです。
1つのFX業者で同じ数量の両建て取引を行うと、多くの場合、毎日スワップポイントの支払いが発生することになります。さらに、両建てポジションを取ったとしても、想定していた通りの損失確定ができるとは限りません。
税金の先送りが目的であっても、スプレッドやスワップポイントのコストなどを勘案した上で、FXの両建て取引を行うことが重要になります。
両建てを証拠金余力の計算方法は業者によって違う。片側だけの証拠金で済む業者が良い
両建て取引を行う場合、FX業者によって証拠金余力の計算方法が違います。片方だけのポジションの証拠金が必要な業者と、両方のポジションに対する証拠金を求めるところの2通りがあります。
FX業者の口座に入金しなければならない証拠金は、少ない方が資金を有効活用できます。そのため、FXの両建て取引では、片方のポジションだけに証拠金が必要な業者で取引する方が合理的です。
大手FX業者のDMMFXやSBI FXトレードなどであれば、片方のポジションに対する証拠金だけでFXの両建てを行うことができます。
投資家の立場からすると、両建てを証拠金余力の計算対象外にしてほしいと考えるものです。しかし、両建てを証拠金余力の計算対象外にしているFX業者はありません。
まとめ
FXの両建ては、基本的にポジションクローズをしていることと同じです。また、手数料であるスプレッドが2倍必要になり、1つの業者で両建てをすると、多くの場合、スワップポイントの支払いが発生します。
また、FXの両建てを行ってロスカットが発生すると、日本のFX業者であれば追証を求められる可能性があります。追証を取らない海外のFX業者でも、さまざまなコストが必要になり、それらが両建てからの利益を上回る場合もあります。
FXの両建ては、これらのリスクとコストをよく理解した上で行うことが重要になります。