キャリートレードを理解すればわかる。安定した金利収入を狙うトレード方法。
キャリートレードの仕組みを知ろう
FX市場で行われているキャリートレードについて超基礎から説明してみます。
日本人が高金利の外貨買いを行うことは、しばしば初心者っぽいトレードアイディアとして批判的にみられることも多いです。しかし、低金利の日本円を利用して高金利の外貨を調達する取引は、ヘッジファンドも行っており、為替市場において一般的な戦略の一つです。
キャリートレードの仕組みと特徴を説明することで、
・なぜ高金利通貨買いが批判的にみられるようになったのか?
・高金利通貨を買う場合は何に気を付けるべきか
を説明してます。
なお、キャリートレード的な高金利通貨買いには金利平価説を根拠にした批判もあるかも知れないので、最後に余談としてそこにも言及しました。
目次
- キャリートレードの仕組みを知ろう
- 金利差がある2地域があった場合、あなたはどうする?
- FX市場におけるキャリートレード
- キャリートレードはプロアマ問わず一般的
- 高金利通貨を買う場合、高レバレッジをかけてはいけない理由
- 金利平価説に基づいた批判
- 高金利買いのトレード成功させるには
金利差がある2地域があった場合、あなたはどうする?
ある地域では、金利1%でお金の貸し借りが行われていて、別の地域では金利5%でお金の貸し借りが行われていたとします。
例えば、
千葉県では金利1%
神奈川県では金利5%
だとします。
この目端の利く人なら、「千葉県で限界まで借りて、そのお金を神奈川県で貸し出す」ってことをやると思います。
それだけで、5%(貸出金利)ー1%(調達金利)=4%(金利差)で4%の利益が得られるわけですから。
実際は日本国内では地域ごとの金利差がないため、上記のような収益機会はありません。
FX市場におけるキャリートレード
しかし為替市場では国を跨ぐことで、上記のような収益機会が生まれます。
金利の違う2か国があったら、どうでしょうか?
豪州の金利が3%(金利水準は実際と異なる)
日本の金利が0.5%(金利水準は実際と異なる)
日本で0.5%でお金を借りて、豪州で3%で貸し付けることができれば
3%(豪州での貸出金利)-0.5%(日本での借り入れ金利)=2.5%
の利ザヤが得られますね。
これがスワップポイントです(厳密には金利差だけでなくフォワード金利市場の需給も影響しますが、FX初心者の方は考える必要はないでしょう)
スワップポイントはキャリートレードによる収益源ですね。
スワップポイントと外債の金利との違いについては以下の記事を参照してください。
円キャリートレード
上記のようなトレードは、円で資金を調達して、高金利の外貨で運用するって意味で、円キャリートレードと呼ばれます。
日本は長期的に低金利通貨になっていたので1990年代からこの日本円の低金利性を利用したキャリートレードに収益機会があると睨んだヘッジファンドが、継続的に円キャリーを行ってきたと言われています。
それが個人投資家にまで広がったのが2000年代です。FX業者が成長し、証拠金取引が個人投資家にまで一般的に行われるようになってきたことで、キャリートレードは一般的なものになっていきます。
ドルキャリー・スイスフランキャリーもある
なお、リーマンショックに端を発する金融危機以降は、米国の量的緩和政策でドルの金利が急低下したため、ドルキャリー取引も頻繁に行われました。流動性が高くて調達しやすいドルが低金利なっていれば、キャリートレードの大チャンスだったわけですね。
また、スイスフランは主要通貨中最も低金利(超マイナス金利)であるので、これまたキャリートレードに大人気です。
東欧の人は、スイスフラン建てで借り入れて家を買うっていう、実物資産を使ったキャリートレード(的なもの)を行っています。
低金利でお金を調達し、必要なものを買う(高金利通貨だけでなく、家だったり、その他の株式などの金融資産を買う)っていうのが広い意味のキャリートレードにあたります。
キャリートレードはプロアマ問わず一般的
キャリートレードとはFX市場における主要な利益獲得手段の一つです。
それは、安い金利で調達して高い金利で貸し出すことは、安いものを買って高いものを売るようなもので、金融取引のある種の本質だからです。
高金利通貨を買う(日本円を売る)って金利を稼ぐっていうシンプルな投資方法は、個人投資家の好む投資手法として有名ですが、ヘッジファンドに代表される多くのプロフェッショナルな投資家にも用いられています。
キャリー収益っていうのは、為替だけに限らず商品先もだったり、債権だったり様々なものに存在しますが、持っていれば儲かる収益=時間を味方にできる収益っていう意味で愛好者は多いのです。
そのため、下の記事で解説したように、金利を上昇させた通貨は買わせる傾向があります。
高金利通貨を買う場合、高レバレッジをかけてはいけない理由
キャリートレードはヘッジファンドの主要な収益源の一つになるくらい一般的な取引手法です。
日本人が高金利の豪ドルやNZドルを買うことは、円キャリートレードを行っていることを同様です。
しかし、こうしたシンプルな高金利通貨買いは初心者的な取引として批判されることが多い印象を受けます。典型的なミセスワタナベの取引手法とみなされがちです。
なぜ、熟練の投資家(が多い)であるヘッジファンドと同じ手法を採っているのに、個人投資家が同じことをやると馬鹿にされるのでしょうか?
それはリーマンショック時の経験が影響しています。
危機時の高金利通貨の急落
上のチャートは豪ドル円の長期チャートです。
黒く丸で囲んだ部分がリーマンショックとその後の金融危機の時期です。豪ドルが大幅に値下がりしているのがわかると思います。
当時の日本人のFX投資家が多く行っていた取引が、 レバレッジをかけた豪ドル買いです。5%の金利に20倍のレバレッジをかけて年間100%の金利収入(スワップポイント)を得るという取引が雑誌に載るくらい一般的に行われていました。
しかし、20倍のレバレッジということは、5%の値下がりで、元本(証拠金)がすべて吹き飛ぶ計算です。これが10倍のレバレッジだったとしても10%の値下がりで、すべての元本を失うことになります。
上のチャートを見て貰えばわかるように、リーマンショック時には30%以上の下落が起きているので、高レバレッジをかけて豪ドルを買っていたFX投資家はすべて吹き飛ぶことになりました。
これが、スワップポイント狙いの高金利通貨買いが嫌われることになった理由のひとつです。
高金利通貨の特質
豪ドルをはじめとする高金利通貨は、経常赤字国であることが多いです。そのため、国内のお金が不足しがちで、金利を高くすることによって海外からお金を呼び込もうとします。
こうした性質から、世の中がうまく回っているとき、世界経済が順調なときは高金利通貨は値上がりします。
世界が安全なら、高金利を享受した方が得なので、世界中の投資家が高金利通貨を買うからです。
一方でリーマンショックの時のように世界が不安定になったらどうでしょうか?
世界中の投資家は、安全な自国に資金を戻したいと考えます(海外に資金を置いておくだけで決済リスクなどが生じる)。
また、高金利な国は経常赤字国と説明しましたが、経常赤字国は海外から資金調達を頼っているため、金融システムが不安定なときは資金調達リスクが顕在化しやすいのです。そんな国には、投資家はお金を置いておきたいとは思いません。
こうした理由から、世界が不安定なときは高金利通貨は値下がりします。
これらをまとめてリスクオン(投資家がリスクを取って勝負したい気分のとき)時の高金利通貨買い、リスクオフ(投資家がリスクを恐れて勝負したくないとき)時の高金利通貨売りと呼ばれます。
金利平価説に基づいた批判
余談です(ちょっと難しめなので、この記事を読んで疑問を持った人以外は読まなくて良いかと思います)。
この内容を記事にしようと思ったとき、ちょっと躊躇したのは「高金利通貨は高金利な分だけ減価(値下がり)するからスワップポイント(金利収入)は超過収益にならない」って批判してくる人がいる気がしたからです。
この批判はある意味妥当なのですが、それが成り立つのは金利平価説が成立している世界だけです。
しかし、実際の世界では金融資産にはリスクプレミアムが存在するため、金利平価説は成立しにくいです。そしてリスクプレミアムは、多くの場合、ボラティリティの高い高金利通貨のパフォーマンスを押し上げる方向に作用します。
だから世界中の投資家は、当然、金利平価説を知っているわけですが、それでもキャリートレードを行うのです。
高金利買いのトレード成功させるには
高金利の通貨を買い持ちすることは、安定してスワップポイントが得られるトレードです。
しかし、高金利通貨はボラテリティが高い(値動きが激しい)。
そのため、高金利通貨買いのトレードを成功させるには以下の条件が必要です。
・レバレッジをかけ過ぎない(スウィングトレード以上の保有期間で勝負するならレバレッジは3倍以下が望ましい)
・リスクイベントが少ない時期にトレードする。
これらを守れば、高金利通貨買いは悪くない取引だと思います。
どういった通貨がキャリートレードで買われるか(また、売られるか)は、通貨別の特徴をまとめた記事をご参照ください。